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東京高等裁判所 昭和61年(ラ)672号 決定 1987年2月10日

抗告人 鄭常英

右代理人弁護士 田中秀幸

相手方 株式会社マンシヨンライフ

右代表者代表取締役 長谷川進

主文

本件抗告を棄却する

抗告費用は抗告人の負担とする

理由

一  本件抗告の趣旨及び抗告の理由は別紙のとおりである。

二  本件記録によれば、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)は、もと辻寛郎、辻和子の共有に属していたこと、債権者東調布信用金庫は、債務者辻産業株式会社との間の金銭消費貸借契約に基づく債権及び約束手形の買戻請求債権の弁済にあてるため、本件建物について、昭和五三年一二月八日登記され同五八年一月三一日に変更登記された極度額金一五〇〇万円とする根抵当権に基づき、競売の申立をし、原裁判所は、昭和六〇年六月二七日競売開始決定をし、同年七月一日右競売開始決定を原因とする差押登記が記入され、差押の効力が発生したことが認められる。

それに対し、抗告人は抗告の理由記載の事実を主張するものであるが、その主張に従うと、申立外山内の設定した賃借権の期間が三年と短期間であるにもかかわらず、その間に申立外山内から同宮下、同宮下から抗告人へと転貸され、さらに抗告人がその二階部分を申立外伊東喜知夫に転貸したというもので、極めて不自然であるうえ、本件記録によれば、また、申立外宮下は、かねてから自ら又は自己と関係を有する者の名義で、数回に渡り競売不動産について、賃借権、転借権の設定をするなどして占有状態を作り出し、競売手続に関与してきたものであること、東京地方裁判所執行官が現況調査のため昭和六〇年七月一一日本件建物に赴いたところ、本件建物内には誰も居住しているようすがなく、ただその前日に貼付されたことの明らかな「三興商事、山内一夫、長五市」なる者名義の貼紙があつたにすぎなかつたのに、同執行官が同月一七日に臨場したときに、はじめて申立外宮下の表札と同人名義の貼紙がされているのが発見され、しかも急拠建物内部の塵芥が除去されて内装工事が進行中であつたこと、さらに同執行官が同年八月一三日本件建物に立ち寄つたところ申立外宮下の表札、貼紙はそのまま表示されており、同宮下も同月二二日、同執行官に対し本件建物は自分が転借中であつて、抗告人には居住させているにすぎない旨を述べたことが明らかである。

そうしてみると、仮に抗告人主張の事実が真実であるとしても、所有者辻寛郎及び辻和子は、前記根抵当権が実行されることを予期し、右根抵当権の実行を妨害する意図のもとに昭和五九年一一月一四日その事情を知つた申立外山内、同宮下と相謀つて本件建物につき賃貸借契約を締結したものであり、その後締結された申立外宮下への転貸借契約、抗告人への転貸借契約もいずれも同様の目的で締結されたもので、抗告人もこの間の事情を知悉していると推認するのが相当である。

そうすると、申立外山内の賃借権及び同宮下の転借権は、競売開始決定による差押の登記以前になされ、引渡を受けたものであつたとしても、民法第三九五条の短期賃借権保護の制度を濫用したものとして民法第一条第三項により無効であり、抗告人の転借権も無効であるというべきである。

また、抗告人は本件建物の造作買取代金の支払及び保証金の返還を受けるまで引渡に応ずる義務はないと主張するが、右のとおり申立外山内、同宮下、抗告人の占有権原が短期賃借権を濫用した無効なものであり、適法な占有と認められないから、これを前提とする留置権の主張は失当である。

三  よつて、原決定は正当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却

(裁判長裁判官 野田宏 裁判官 南新吾 成田喜達)

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